絵を描き続けている人は「絵の上手さ」にとらわれやすくなり、絵の上手さこそが自分への評価に繋がると思ってしまいます。
その原因と危険性を説明します。
今回の記事は「評価」という点に重さを置いて書いてあります。
なので、評価なんていらない、興味ないという人には不要な情報かもしれません。
「評価されたい」
「評価されるべき事をしているはずなのに評価されない」
「なぜあいつは自分より評価されるんだ」
そんな悩みがある人のための内容になります。
Contents
アニメーターはアニメーターに評価される
絵を描く側と見る側では絵に対する考えが根本的に違います。
ここでは描く側のことアニメーターを例えに紹介していきます。
アニメーターが評価される場所はほとんどアニメ業界内(アニメ会社の中)だけです。
視聴者から評価されるアニメーターというのはほんの一部だけです。
一般的なアニメファンが知っているアニメーターは何人いるでしょうか?
「好きなアニメがたくさんある人」はいても、「好きなアニメーターがたくさんいる人」は少ないはずです。
なのでアニメーターは同業のアニメーターや制作さんなどの「アニメ業界内の人」に評価されることになるのです。
アニメーターは上手さしか評価しない
アニメーターがアニメーターを評価するとき、あたりまえですが絵の上手さ(仕事の出来)で評価します。
むしろ絵の上手さ「のみ」を評価すると言っても過言ではありません。
絵さえ上手ければどんな人格であっても、どれだけスケジュールを狂わせようとも評価されます。
そんな画力至上主義の世界です。
特にアニメーターは「絵の上手さ」を重要視します。
「上手ければ評価される」という考えが根付いてしまう。
アニメ業界は画力至上主義であるため、絵が上手ければ上手いほど評価が上がります。
「絵が上手いのに評価されない」という事はまずありません。
あるとすれば「自分の絵の上手さを理解していない場合」か、
よほど環境の悪い会社にいて「他社に移られるのを恐れて洗脳されている場合」です。
なので絵さえ上手ければ、アニメ業界内だけでは間違いなく評価されると考えて間違いないです。
厳密には絵が上手いだけではアニメーターとしては問題があるのですが、「評価」とは別問題なのでここでは言及しません。
制作は「約束を守るか」で評価する
制作さんとは簡単にいえばアニメ作りの管理全般を行う人ですが、アニメーターを集める役も担っています。
つまり仕事をするうえで制作さんに評価されるということも重要なのです。
画力が求められるのは当然ですが、同時に「信用」も求められます。
つまり「この人は信用できるか?」という視点で見られます。
アニメ業界は常に時間と人手が足りず、あらゆる会社や作品が「かろうじて納品している」状態です。
そんな状態のアニメを「完成させる」ことに1番長く深く関わるのが制作さんです。
こんな業界だと「絵は上手いけどスケジュールを守らない人」よりも、「スケジュール等の約束を守り、確実に仕事をしてくれる人」が求められることもあります。
この結果、作品の画力水準が下がることがあるかもしれませんが、完成しないよりはマシと判断されるのでしょう。
どんなアニメーターと仕事をしたい?と制作さんに聞いたら
と切実に言っていました。
制作さんにとって「アニメーターの絵の上手さがどうでもいい」という訳では決して無いのですが、アニメーターの絵の上手さを気にしていられる時間と心の余裕が無いのです。
客は「好きかどうか」で評価する
お客さん、つまりアニメファンや視聴者は、作画のクオリティが高いからといって評価するとは限りません。
さらに言えばたとえ評価したとしてもお金を出すとは限りません。
という話はよく聞きます。
「作画がいいから」ではなく、「その作品が好きだから」という理由で視聴者はお金を払います。
基準は「凄い、凄くない」ではなく「好き、嫌い」なのです。
もちろん「作画の良い作品が好き」という人もいますが、決して多数ではないのでそこをターゲットに商売をするのは割りが合わないはずです。
個人の趣味ならなんの問題もありませんが、組織で行う商売なので「売れなくてもいい」は通りません。
作画が良いけど売れない。作画が良いわけじゃないけれど売れた。
ということがある時点で「作画の良さ」はある程度の水準を超えてさえいればそれ以上高くある必要はない。
というのが客側の感性なんだと思います。
カメラの画質なんかと同じですね。
低すぎると困るけど高すぎる必要は無い。
異常な画質の高さを必要とするのは一部のプロなどで一般層は必要としていない。
お客さんは「その商品を自分が好きかどうか」で評価したり、購入を判断をする。
この当たり前のことを、クリエイターは忘れてしまうことが多々あります。
お客さんは創作物のその奥にいるクリエイターの実力や思考、境遇を考えません。
もちろんお客さんはそんなこと、考える必要も義務も無いのです。
お客さんが求めているのは「作品が自分に与えてくれる快楽」です。
アニメーターが「技術が高ければ評価されるはず」と錯覚していると、
「自己評価」と「客からの評価」とのギャップで苦しむことになります。
「下手でもいい」というわけではない
勘違いしないで欲しいのは、
「上手さが評価されるとは限らない」であって、「下手でもいい」という訳ではないということです。
特にアニメーターの場合は高い画力がないと務まりません。
なので絵の上手さは必須です。
ここでの話はあくまで、
「アニメ会社内の仕事評価は画力が直結する」が、「お客さんからの評価は画力が反映しない場合がある」
という違いを理解してほしいということです。
評価は仕事相手によって異なる
「会社を仲介して絵が世に出る場合」と、
「客と直接商売をする場合」とで求められるものは変わります。
会社が絵に求めるものは、「依頼通りであること、質の高さ」
客が絵に求めるものは、「その絵が好きかどうか」
この違いを知っておくこと、忘れないことが大事です。
アニメーターは絵が上手いほど評価されるので、
「絵が上手ければ認められる」と思い込んでしまいがちです。
一生アニメーターでいられるならばそれでいいかもしれませんが、それはとても難しいことです。
一生アニメーターではいられない
アニメーターの離職率は9割だと世間では言われてます。
私の周りのアニメーターもだいたい9割くらいは辞めているのでおおむね間違ってないのかもしれません。
もちろん会社によって異なります。
技術不足、賃金不足、健康や精神のすり減り、家庭の事情など、様々な理由でたくさんの人が日々アニメーターを辞めていきます。
逆に言うと、
業界で生き残っていけるほどの高い技術を持ち、お金に困らないほど稼いでおり、体も心も健康で、他人からの影響を全然受けないという人ならば一生アニメーターでいられるということになります。
極端に表現してはいますが、アニメーターを続ける難しさがわかると思います。
最後に(評価を求める人へ)
今回、「評価」という点に注目した記事を書いたのは、
とある現役アニメーターの友人との会話が発端となっています。
その友人は絵を描いてネットに上げていましたが、思ったよりも評価が得られず「全然評価されない」と嘆いていました。
「自分の方が上手いのに、下手なあいつの方が何故か評価されてる」そんなことをよく言っていました。
これを聞いて私は「上手さは関係ないんじゃないか?」と思い、友人と上記の内容のようなことを議論しあいました。
そしてアニメーター界の「画力が評価の基準である」という文化が心に悪影響を与えることもあるのでは?
と思い、今回の記事を書きました。
もしこのような「評価」による悩みを持っている人は、
たまに客側の気持ちになってみてください。
客からの評価を求めようとした場合、「クリエイターの価値観」は通用しないという事がよくわかります。