業界や会社の話

アニメーターの描いた絵は捨てられている

アニメーターになって驚くことの1つが

「描いた絵は手元に残らない」ということです。

それによって起こることと、その対策をまとめました。

デジタルだと多少話が変わるかもしれないので、

ここでは紙の作業についてのみ書いてあります。

それを踏まえた上で読んでください。

描いた絵は返却されず捨てられる

私がアニメーターになる前は、

「絵が上手くなること」「描いた絵がアニメになること」

ばかり求めていました。

そうやって描かれた絵が、

その後どう使われてどこへ行くのか考えてもいなかったのです。

 

アニメーターが描いた絵は、描いた人の元に残りません。

描いた絵はその後の工程に運ばれて行き、作業が進み、

作品が完成した後は倉庫に置かれ、ほどなくして捨てられます。

 

返却されないどころかそのほとんどが捨てられてしまうのです。

 

少なくとも、描いた側が何も言わなければ返却されることはまず無く、

全て捨てられます。

 

絵を描く業界は数多くありますが、

「マスターデータを描いた人に返却せずに勝手に捨てる」

なんてことをするのはアニメ業界くらいです。

どれほどの枚数が捨てられたのか?

自分がテレビアニメの仕事をしていると仮定して考えてみてください。

はたして1日に何枚描けるか?

 

役職や個人差によっても変わりますが、

原画で仮に1日に3カットやったとしましょう。

 

そして1カットの枚数は5枚だったら。

1日に15枚の絵を描いたことになります。

(ラフや描き直しの枚数は含めていません)

 

単純計算で1ヶ月(26日)で390枚。

1年で4680枚。

私は10年アニメーターをやったので4万6800枚描いた計算になります。

(あくまで計算に過ぎないので実際の枚数とは異なると思います)

 

4万枚もの絵を描いて納品してきたにもかかわらず、

その現物は手元に一つも残っていません。

まだどこかに保管されているものもあるかもしれないし、

全て捨てられたかもしれません。

 

アニメーターを辞めて手元にあるのは、

数百枚分のスキャンデータやコピーがあるだけです。

絵が世に残るのは上手い人だけ

例外として、捨てられないものもあります。

原画展などで展示されるもの、原画集に収録されるものなどがそうです。

つまりは商品という価値を見出されたものです。

 

そうなると結局は上手い人、有名な人の絵だけが世に残り、

それ以外は「放送」という役目を終えたら捨てられます。

 

実際、販売されている原画集やコンテ本などは、

業界内でも飛び抜けて技術が高く、アニメファンに人気のある人だけのものです。

(同人誌という形で、自分の絵を本にして売る方法もあります)

 

しかし、そんな技術の高い人の描いた絵ですら、

しっかりと管理されているわけではありません。

 

最近だとこんなことがありました。

アニメーターとして非常に高い技術を持ち、

アニメーターにもファンにも人気の磯光雄さん。

 

その磯光雄さんの原画集を作る、となった時、

「素材を持っている人がいたら教えて欲しい」

とSNSで呼びかけているのを見ました。

 

もちろん少しでも素材を集めれた方が良いので、

こういった呼びかけをすること自体は大事だと思います。

しかし、私は

「こんなにも実力、経歴、人気のあるアニメーターの絵であっても

 ちゃんと保管されてないのか」と思いました。

 

アニメ業界の絵の素材に対する管理は酷く甘いのです。

アニメーターの絵は価値が低くみられている

実力のあるアニメーターの場合

アニメーター界の技術は上下の差がとても激しい。

業界のトップレベルの技術はあまりに高く、

凄まじすぎて理解できず、人間技には思えないほどです。

 

そんな高い技術力であっても、どんどん描かせられて使い終わったら捨てられる。

アニメーターが描いた絵は、価値が低く見られているように感じます。

アニメーターは1人1人が大量の絵を描くので、

1枚の価値が分散しているような錯覚を与えているのかもしれません。

 

そしてアニメーターにまともな教育はなく、

個人の天才的能力が偶然出現することに頼っている状態です。

なのでトップレベルのアニメーターの技術は、

次世代の天才が現れなかった時に失われます。

 

資料の保管も、教育による継承もしていないので当たり前です。

 

私はトップアニメーターの技術は、美術品や工芸品のような価値があると思っていますが、

それを保存し未来に受け継がず、

量産するだけ量産し廃棄されていく現状はつらく感じます。

本人たちがどう思っているかわかりませんが、

絵が捨てられることに頓着がないようにすら見えます。

 

本当なら絵を描いた本人に、自分の絵の価値を大事にしてほしい。

仮に本人が大事にしなくても、業界や会社が保護するのが当たり前のはずだと思います。

実力に自信のないアニメーターの場合

危惧すべきはトップアニメーターだけではありません。

実力や自信の有無に関係なく、描いた絵の保存は大事です。

 

いつでもテレビで観れる

技術もまだ未熟だし返せなんて言えない

描くので精いっぱいで、保存も管理もする余裕ない

などと考えるでしょう。

新人の頃ほど、自分の絵に価値を見いだせないものです。

 

しかし、テレビに映る絵は自分の描いた絵ではなくなるし、

本人が未熟だと思っていても他人には価値があったりもします。

どんな形で自分の絵が評価されるかは、

今の環境だけでは判断できないものです。

絵は可能な限り手元に残した方が良いです。

 

過去に仕事で描いた絵は2度と見れなくなります。

アニメーターが描く絵の枚数は尋常じゃないほど多く、

もし返却してもらったら、とんでもない量になる。

なのでいらないという人もいると思います。

 

理想は「返却する」、「廃棄する」を選べる事。

しかしアニメ業界においてシステムを変えることはとても難しいです。

どんな問題があっても現状維持するのがアニメ業界。

 

なので個人的に対策をとる、というほうが賢明です。

初めから「返却してくれ」と言っておけば、返してくれる場合もあるかもしれませんが、

新人や自分の実力に不安のある人ほど言い出せませんよね。

 

そんな人はせめて描いた絵のコピーを取っておくことをオススメします。

物量が気になるならスキャンしてデータでとっておいてもいいです。

 

アニメーターはどれだけ上手くなっても、さらに上手い人が常にいるので、

「自信を持つ」ということができないという面があると思います。

 

「自分なんてまだ・・・」とよく言うアニメーターが多いのはこのせいだと思いますが、

「上手くなったら絵を保存しよう」と思っていたら気が付いたら

「手元に過去絵が全然無い」なんてことになりかねません。

自分の絵の価値は自分ではわからない

1日に何十枚も描き、1か月で何百枚も描いていると、

自分の描いた、たった1枚の絵なんか

価値が無いと感じてしまうことがあるかもしれません。

 

けどそうじゃないと私は思います。

 

会社や上司が価値を見出してくれなくても、

1枚1枚が自分の経験値であり財産になるはずです。

それは自分にとって価値のあるものになるかもしれないし、

誰かにとって価値のあるものになるかもかもしれません。

 

私自身も過去に描いた絵の現物は手元にほぼ残っておらず、後悔しています。

あるのは10年働いてうちの2年分の原図スキャンデータだけです。

マンガ業界で起きた事件

アニメーターにとっては、

絵が返って来ずに捨てられることが常識になってしまっているので、

不思議に思っている人が少ないです。

 

しかし、マンガ業界では「編集が原稿が紛失した」ということで

訴訟することも起きています。

 

「自分の描いたものに価値がある」という自負があるからこそ、

こういった訴訟が起こるのだと思います。

 

アニメーターも、他の絵を描く職業の人たちのように、

自分の描いた絵に価値を感じてほしいのです。

実力の有無に関係なく。

アニメーター界に「契約」はない

アニメーター界隈には「契約」という存在がほとんどありません。

 

なので、

著作権が誰にあるのか?

描かれた絵は捨てるのか、返却するのか?

仕事で描いた絵を個人的に売っていいのか?

何もわからないのです。

 

「コレはいいですよ」という許可の契約も

「これはダメですよ」という禁止の契約もありません。

 

そうなると人は自分の価値観で解釈します。

きっと絵は保存してあって、いつでも返してもらえるんだろう

あんな上手い人の絵が捨てられているのに、自分なんかが返却を求めるなんて図々しよな

といったように。

 

しかし、アニメーターになる人は覚えておいてください。

契約の無い場でのやり取りは何をされても文句が言えないし、

後から何か言ってももう遅いのです。

アニメーターになる人へ

「契約」の無い無法地帯に飛び込むからには、自衛が必要になります。

どんな些細なやり取りであっても、

それは「約束」なのか「契約」なのかしっかり把握しておきましょう。

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元アニメーターの経験を元に『アニメーターになる前に知っておくべきこと』を伝えます。