アニメーターの描いた絵は、作業時よりも劣化して世に出ています。
なぜ、こんなことが起こるのか?
その仕組みを説明します。
「絵が劣化して世に出る」ということは現役アニメーターにとっては周知の事実です。
自分のやった仕事や、仕事中に見た上手い人の絵。
それがテレビなどで放送された時、「あれ?こんなものだっけ?」となるのは日常茶飯事です。
では何故そんなことが起こるのか?
Contents
分業制の弊害
大きな要因は、「アニメの制作が分業によって行われている」という点です。
アニメの完成画面は、たった1枚の絵であっても多くの人が描いているのです。
絵が劣化する仕組み
「なぜ絵が劣化するのか?」というのを、
アニメ作りを全く知らない人向けに説明します。
・まず原画マンが絵を最初に描く。(これをレイアウト、もしくは1原と呼びます)
↓
・それに演出指示や修正を描く。(これが演出修正)
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・それを元に作画の修正がされる。(作監修正)
↓
・必要であればさらに修正。(総作監修正)
この時点が最も絵の質が高い状態です。
ここから逆に質が下がっていきます。
・総作画監督の修正を元に、原画マンが絵を描き直します。(これを第二原画、もしくは2原と呼びます)
総作画監督の絵はここで劣化します。
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・これを演出、作画監督、総作画監督がチェックし必要ならばまた修正。
ここでわずかに絵の質は上がりますが、スケジュールが無い場合、この工程は飛ばされやすいです。
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・その原画を動画マンがトレスし、さらに原画と原画の間の絵を描く。(動画)
ここは「最終的にテレビに映る線」を描く工程なのでとても重要なのですが、一般的に教育がなされず、作業時間は原画以上に無く、海外に委託することも多く、ここでかなり劣化します。
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・それを動画検査さんがチェックし、問題があれば修正。(動画検査)
問題の起きやすい動画の工程を、最後の最後に直すという非常に大事で負担のかかる役職です。
しかし最も物量が多く、最も時間が無い工程でもあるのですべてを修正できるわけではありません。
線画としての工程はここまでです。
(動画検査の後にも仕上げ、撮影などあり、そちらのほうがもっと時間がありません。
私はこの工程に関しては知識が薄いのでここでは詳しく説明できません)
絵の質が平均化される
多くの人が同じ絵を何度も繰り返し描き直すことで、
一旦クオリティーは上がり、途中で下がり、
そして完成画面では最初に描いた絵は見る影もなくなります。
アニメ作りというのは、10点の絵を100点に引き上げることもできますが、100点の絵も70点にしてしまう弊害があります。
これは大量の絵を大人数で作画するために考えられた方法なので、必ずしも悪い事ではありません。
最後に
アニメ制作のシステムは一長一短で、人によって良い、悪いと意見が割れると思います。
このシステムは私にとって欠陥としか思えず、特に「自分が人の絵を劣化させること」がつらかったです。
アニメ作りは「クリエイティブな作業部分」と、「工場のライン作業的な部分」が両方あります。
そのことは案外知られていないなと思い、紹介しました。
アニメファンにとっては不要な知識かもしれませんが、アニメーター志望者は覚えておいてください。
決して、クリエイティブなことだけできる仕事ではないのです。

